秋の夜長に見る夢は 世界連邦

少し前、筆者は「世界連邦」という重々しい表題の本を上梓した(1)。
最初からそれを意図したわけではなかった。兄への生前レクイエムとして書いているうちに、そのような題になってしまった。兄の人生の大半は、大変な苦労に満ちたものである。たまたま筆者より8歳も早く生を受けたため、その苦労はすべて戦争(第二次世界大戦)やそれに関連する事態に起因することが分かってきたのである。そして、その苦労をなくすには世界連邦を創設するしかないと確信し、本の表題を「世界連邦」としたのである。

兄の半生を簡単に羅列すると、旧制中学時代に学徒動員により1945822日、沖縄戦の切り込み隊として出動予定が、1週間前の815日の終戦により図らずも生還。1946年春、家族とともに台湾より沖縄宮古島に引き揚げる。英会話学校を終え、米軍統治下の那覇測候所から奄美測候所に希望移転。ある夜、やみ船にて日本鹿児島に出航するも、米軍監視船に捕らわれ奄美大島に戻る。
翌年、第1回米国留学試験に合格し、米国ニューメキシコ州立大学に留学。家族の経済的理由のため途中退学。帰沖し琉球銀行に就職するも、琉球大学設立に伴い請われて琉球大学教官となるが、家族扶養のため紹介により米国の宝石会社マスターピース沖縄店長を引き受ける。1972年、沖縄日本復帰のため支店は閉鎖となる。自らの会社KS貿易を設立し宝石会社をスタートするも、強盗に2回連続アタックされすべてを失い、大きな負債を抱える。その返済のため、妻、学生だった長男、次女、三女すべて勉学途中で中止し働きに出る。そのうち妻は過労が続き死亡。しばらくすると頼みの長男が仕事仲間の借金の連帯保証人となり、膨大な借金返済を迫られることになり、自暴自棄になった長男が荒れた生活がたたり死亡した。

兄のこのような苦労の連続の背景には、すべて戦争という時代背景が存在していることがわかる。兄は幸か不幸か生還したのだが、切り込み隊で戦死した先輩や同期の学生がいたであろう。兄は絶えずその先輩や同期生たちのことに思いを馳せ、後ろめたい気持ちを時々口にしていた。兄は現在、認知症を患い施設に入所中である。ショッキングな出来事の連続が、兄を安らかな認知症の世界に誘ったのだと思う。

このような兄の一生から学んだことは、やはり戦争をどうすればこの地球から無くし、平和な地球にできるのだろうと、政治とは縁のない筆者が考え付いたのが世界連邦しかないという思いである。

世界連邦構想は多くの先達が提唱してきたことでもある。現在もその運動は続けられている。筆者の周辺でも新しく真剣に取り組んでいる人々がいる。西村峯満氏(サニーヘルス株式会社 会長)(2)は私財を投じて、世界からノーベル平和賞を授与された方々を招き、平和会議を軽井沢で開催された。沖縄では喜納昌吉氏(3)のグループが「すべての武器を楽器に」と平和運動を繰り広げている。

だがその実現には、多くの困難な状態が存在しているのが周知の現状である。問題は具体的にどうやって地球を一つの国、世界連邦に育てるかである。その方法論はいろいろと考えられるが、その実現は困難である。しかし、困難であるからこそ達成すべき勇気と志を持つべきであろう。

物理的には難しいことではない。すべての武器弾薬(核爆弾を含め)を地球の中枢としての世界連邦に集め、あらゆる戦争や紛争を地球部隊(国連部隊)がコントロールすればよいだけである。部隊というより警察というべきかもしれない。常時紛争の種を見回る地球警察、あるいは国連警察の創設である。

このような膨大なパワーを有する国連隊または国連警察をどのようにして創造していくかが、現実的には大きな困難がある。軍隊や政治とは無縁の筆者には、秋の長い夢の中で次の方法論が彼方から届いた。

  1. 現在の国の境界を隣国同士で共有する。例えば尖閣諸島を中国と日本で共有する。竹島を我が国と韓国で共有する。
  2. EUを見習って、その経済的共同体の範囲を次第に広げ、World UnionWU)に拡大していく。その過程でAsia UnionAfrican UnionMiddle East UnionNorth and South American UnionNSAU)をつくり、それらを融合していき、やがてWU世界連邦とする。
  3. 現国連を改革し、すべての国の合議制にし、常任理事国・非常任理事国などの制度を撤廃する。
  4. すべての国はその国の経済的規模・人口比に応じて、武器・弾薬を国連軍に徴収する義務を負う。そして次第にその割合を増やしていく義務を負う。
  5. 武器弾薬の製造は国連の指定・許可制によってのみ行うことができる。
  6. 世界のコミュニケーション言語をすべてエスペラント語とする。
  7. すべての宗教の教義を包含した新しい包括宗教(地球宗教)を創造する。
  8. 世界の全企業はその収益税率を段階的に国連に納める義務を負う。
  9. 人種差別、宗教間争い、男女差別、年齢差別に対し厳格な国連法を制定する。
  10. 10.他のNGOと連携しながら組織作りを行う。

その結果、念願の世界連邦は創設されたのである!

秋の夜長に見た夢からふと目覚めると、NHKの深夜便の「にっぽんの歌 こころの歌」が終わり、ニュース番組の中で、ロシアがウクライナに無差別攻撃を開始したこと、イスラエルがハマスを狙ってガザ地区へ相変わらず攻撃を続けている現実を報道していた。改めて、まだまだ進化していない人間の性に、鬱陶しい朝を迎えざるを得なかった。

1)下地恒毅:『世界の危機を救う世界連邦 沖縄から平和を考える』、幻冬舎、2015;下地恒毅:『世界連邦 社会的疾患である戦争の抑止力に』、幻冬舎文庫、2019

2)西村峯満:『戦争と紛争をなくすには世界連邦政府を樹立する以外にない』、論創社、2020

3)喜納昌吉:「平和への思いを音楽に乗せ」、琉球新報、2024221日号

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