我が家のネコから学ぶ

我が家のメス猫ミー子は今年で24歳である。純白で顔は女房に言わせると美人であるそうな。

今は東京のこじんまりしたマンション暮らしだが、新潟在職中、仕事場近くに小さな住まいを建てて半年ぐらい経ったある日、ミー子はネコの額ほどの裏庭に迷い込んで以来ずっと居座っている。迷い込んだのが1987年秋だったから今年(2011年)で丁度24年になることになる。私はネコ嫌いのほうである。向こうもそのことを認識しているとみて、居座って以来、まず餌をねだる時以外は私には近寄らない。マンションのラウンジとキッチン、女房の寝室という3つの部屋の空間だけで暮らしている。外の散歩をさせてはどうか、との私の提案に女房は否定的である。その理由は東京の空気はネコにとってよくないことと、見失うことの恐れかららしい。しかし、ミー子の方がそれに満足しているかどうかは判らない。

上の3つの小さい部屋以外は敢て行こうとはしない。それでも時々上の3つの部屋を仕切っているドアがたまたま開いていると、いつの間にか小さな廊下に出て、私の書斎の前できょろきょろじろじろ部屋の中を見渡している。

私のネコ嫌いの理由の第一はネコの鳴き声である。ミー子は特によく鳴く。その鳴き声たるや多彩である。音階の高低からすると3オクターブは優に超える。その強弱、長さ、リズムもさまざまなのである。あまり連続的に泣き出すと、気の短い私は「うるさーい!」と叫ぶのだが、これは全く効果がない。何時ものことだが、結局、私がその場から退却することになるのである。

さて、そのミー子はここ数年の間に3回ほど食事をせず、じっと動かない日が2,3日続くことがあった。そんな時はただひたすらじっとして動かず、時々水を飲みに行く以外は何も食べない。部屋の隅か女房のベッドで寝たきり全く動かず声を出さない。その間、女房は脱水を心配し濡れたガーゼで口元を潤していると、3日ほどすると自ら餌コーナーの水を飲みだし、その回数が増え、ついに小さい声で「ニャー」と餌を所望するようになるのである。

しかし、今回だけは違っていた。1週間たってもじっと動かず、水も飲まない日が続いた。

女房も脱水に心配して何時ものように水で浸したガーゼで口元を潤ませていた。身体は衰弱し毛並みも悪くなり力なく、骨盤が飛び出して見えるようになった。もうそろそろ寿命かなと思ったが、一方では獣医に診てもらいに行こうかとも思った。しかし、この高年齢で治療のため痛めつけるのもどうかと思い悩んでいた。1週間もたったころ、何も食していないのによたよたと便をしたのである。すると今度は自分で水を飲みに行ったのだ。

おー、何と言うことか、1週間の断食後、自ら体調を回復したのである!次第に水の量が増え、小さい声ながら、「ニャー」と餌を所望するようになり、鳴声は日増しに大きくなり、餌の量が増えて体重も毛並みももとの元気な身体に戻ったではないか! ただ、この断食とも言うべきエピソード以来、何故か、それまで目がなかった魚類を好まず嗜好が鶏肉に変わったことである。

このミー子の回復力の素晴らしさから、私達は何を学ぶべきだろうか?

先ず、第1に食欲のないときには無理に食べないことである。こんなとき、現代医療では、点適等による栄養補給をするのが慣わしである。食欲のないのはそれだけ食事を消化する機能が失われているはずである。その原因には消化器機能の不全による。その原因は、例えば、腸管の運動機能障害、消化酵素の分泌障害、胃腸管の炎症や血行不全だけではなく、肝臓や腎臓等の内臓機能障害、精神的な影響による自律神経の機能不全、あるいは薬物の副作用など色々である。症状として食欲不全として現れる。

人間は食欲がなくなると、本人もさることながら周囲も、さあ栄養失調になると大変だと心配のあまり無理に食して、挙句の果て点滴で栄養補給をすることになる。

これは機能の低下した機械に無理な負荷をかけるようなものである。たちまち機械はストップしてしまう。食欲を統御しているのが脳の深いところにある大脳辺縁系である。大脳辺縁系の指揮下で視床下部というところにある自律神経中枢や脳下垂体のホルモン分泌中枢が頑張っている。視床下部が身体の臓器の機能を司っていると言ってもよい。その機能に及ぼす大脳辺縁系をコントロールしているのが大脳皮質である。

ヒトを含め動物は器械とは異なり色々な自己修復力をもっている。感染があれば血液や組織の菌や異物を攻撃したり、一部の組織の血行が悪くなると新しい血行ができたり、一部の組織が損傷されると新しく組織が新生されるなど、である。動物では人にくらべ大脳辺縁系の影響が大きい。その影響下で行動する。食欲がなくなれば食せず食欲がでてくるまでじっとしている。そのうちに臓器の障害部位の修復がゆっくりと進んでいるのである。飢餓の状態下で緊急修復過程が発せられるのである。そこには消化器官から発せられる情報が大脳皮質や大脳辺縁系に受け止められ、視床下部を介して、自律神経活動の制御やホルモン遊離、組織免疫細胞、血行再建機能などが緊急動員されるのである。

ここで我が国のエンジニア西勝造氏が1927年に提唱した健康法やそれを自ら実践した甲田光雄医師の考えが想起される。両氏の飢餓療法は最近の文献で次第に証明されてきているが、それが、この我が家のミー子にも適応されているのではないかと思われる。

食事制限や絶食が動物の寿命を延ばすことは以前より知られている。そのメカニズムが最近分子レベルでさらに分析され、またヒトにおける臨床実験でも研究されている。

一方、センテナリアン(100歳以上のヒト)の中に、大食やステーキを欠かさないヒトがいること、喫煙者もいることなどが、メディア等で報じられている。しかし、これは遺伝的に特殊な人達である。科学は平均で比較するので、特殊な例は入らない。したがって、そのような特殊なヒトと同じように生活するのは大変危険なのである。

わが家のミー子もそれを証明しているように思われる。食欲のないときは食せず、身体を休めて自己回復力を待つのである。ミー子はそれを本能的に知っているのだろう。2011.09.10.

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