慢性の痛みの原因はいろいろ

慢性の痛みの原因はいろいろー
体質・骨格の特徴や精神的ストレスだけでも生じます

慢性の痛みの原因】

慢性の痛みの原因は局所の炎症・損傷だけでなく身体的な原因と精神的な原因との相乗作用でも生じます。

慢性の痛みの原因は多彩です。またその表現も身体的な痛みだけでなく精神的な状態で修飾されます。例えば、身体的な痛みが3(我慢できる程度の痛み)程度ある場合、精神的な関与(例えば心配、不安、うつ)5(不安が強い)あると合わせて患者さんの痛みの表現は8(ものすごく痛くて仕事ができない)以上になることがあります。例えば腰痛が3あったとして、患者さんが腰痛の原因がどこかがんの転移ではないかと思ったとたん不安が助長し、不安の因子を7とすると、患者さんの痛みの表現は合わせて10となり、死にたいほど痛いと表現するかもしれません。

身体のある部位に慢性の痛みがある場合、炎症(炎症といっても細菌などの病変によるものや非細菌性のものもあります)や組織の障害、虚血、外傷性のものなど種々の原因が考えられます。痛みのパターンも持続的な痛み、放散するような痛み、

運動時だけの痛み等々、病態によって異なります。

稀な原因としてその方の骨格が原因であることもあります。例えば、脊椎の並びが生理的でない場合、すなわち解剖学的変異で慢性の痛みが生じる場合もあります。

ストレートネックやストレートヒップなどがその例です。頸椎は重い頭蓋を支えるためにまた胸椎は胸部・腹部の臓器を支えるために、腰椎は腹部の臓器を支えると同時に下肢を支えるためにそれぞれ生理的湾曲という緩やかな曲がりがあります。二本足で歩く人間にとっては進化の過程で力学的に最もバランスのとれるように脊椎は生理的な緩やかな湾曲があるのです。人間がさらに進化して脳がより重量が増えるような未来人間の場合は脊椎の形も変わってくるかもしれません。

少し横道に入りましたが、このような脊椎の生理的湾曲によって私たちの体はスムースに活動ができるようになっています。ただ、この生理的湾曲が最も理想的なものかどうかは判りません。進化の過程でこのようになったといえます。人間が更に進化すると変わってくるかもしれません。脳の重量が更に増えてくると頸椎の生理的湾曲や骨組みも変わってくるかもしれません。後頭部・頸部・肩などの痛みや腰痛などはまだまだ二足歩行の人間が進化の過程にあるからだと思います。

日本人の多くの方々にストレートネックと言って生理的湾曲のない真っすぐな頸椎や腰椎を持っている方がおります。それぞれ慢性の後頭部痛、首、肩の痛みや腰痛の原因の一つになっていることが知られています。スマホの普及によって更にストレートネックが増えているという報告もあります(スマホネック)。また、繊維筋痛症と言って全身の筋肉の痛みが起こる慢性痛がありますが、その原因のひとつにストレートネックが関係しているという最近の報告もあります(1)。このように脊椎のちょっとした非生理的な歪みで痛みが生じることがあるのです。

-症例の検討-

最近の患者さんの慢性痛の症例を紹介します。

患者さんは59歳女性、右下腹部痛が程度の差はあるが約15年ずっと続いている。
当人は盲腸炎(虫垂炎)、大腸がん、子宮やその付属器がん、などではないかと心配している。
そこで、当部を触診してみたが圧痛なし、ブルンベルグ徴候(圧迫した手をはなすと痛みを訴える反応で腹膜に炎症があるか否かのサイン)なし。当部の腹筋のこわばり(筋性防御)もない。従って腹膜の炎症はないようです。

そこでさらに右の腹壁を内側に抑えると痛みを訴えました。この方は若いころから内臓下垂を指摘されています。さらに17歳のころ側弯症の手術を受けておられます(図1)。その後遺症としてストレート腰椎が生じその結果腹筋の発達が十分でなく内臓下垂の原因になっている可能性があります。40歳のころ左乳がんの摘出術を受け、またその2年後ベル麻痺を患い、現在その後遺症のため3か月おきにボツリヌス注射を受けています。また上下肢ともに冷え性があります。

そこで治療として、まず胃下垂帯を巻くこと、痛みの下腹部位および靴底にホカロンを挿入すること、朝食後毎日ウォーキングをすることなどを指示しました。12日後痛みが取れたと喜んでいます。

この患者さんの痛みの原因は内臓下垂によって腹膜が下に引っ張られ腹膜刺激症状が出ていたと思われます。右下腹部に痛みが集中していたのはおそらく側弯症の手術が原因していると思われます。また、顔面神経麻痺の後遺症の精神的負荷や2か月ほど前に亡くなられたお母様のことなどの精神的ストレスがその痛みに大きく関与していたと思われます。

物理的な下腹部のベルト装着によって内臓下垂による腹膜刺激症状が抑えられ、下腹部へのホカロン挿入によって局所の血流が増え蓄積していた痛みの物質が洗い流され、ウォーキングによってストレス解消がある程度できた結果であろうと思われます。
図1.側弯症(左)とその矯正固定術()の模式図

図2.内臓下垂の模式図
重力によって内臓が下部に押しやられています(太い矢印)。その結果、腹膜に緊張が生じその結果腹膜の神経が刺激され痛みが発生します。また、腹膜緊張のため腹膜血流が減少し腸管の動きも障害される結果になります。

(1)Katz RS Leavitt F, Cherny K Small AK Small BJ:  The Vast Majority of Patients With Fibromyalgia Have a Straight Neck Observed on a Lateral View Radiograph of the Cervical Spine: An Aid in the Diagnosis of Fibromyalgia and a Possible Clue to the Etiology J Clin Rheumatol 2023;29:91-94.

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