スリッパのメリット・デメリット

我が家の基本設計は日本家屋ですが、和洋折衷の家屋で一階の床はすべて木材によるフローリング、二階の二つの部屋は洋間で、残り二つの部屋が和室で畳間です。それら部屋の間を板張りの廊下がつないでいます。
1987年に建てたので今年(2024)37年になります。建てて住んで以来、何の気なしにスリッパを履くのが習慣化してしまっています。
一階から二階の廊下まではスリッパ、和室に入るときは素足または靴下履きです。

スリッパを履いたり脱いだり結構面倒です。そこで、最近になって、スリッパを履くのが健康的なのかのどうかネットで調べてみました。
ネット上では、そのメリットを謳っているのが多数派です。
少数派ですがデメリットを指摘している意見も見受けられます。
しかし、それらの記載は科学的に検証されたものではなく各人の意見であることに気づきました。
中にはコマーシャルの観点からそのメリットが宣伝されています。

メリット派では「床を汚さないためにも、スリッパは効果的 、また、床に落ちた髪の毛やほこりなどで足の裏を汚れから守ってくれる効果がある、室内で靴下を履いている人にとっても、靴下を汚さないためにスリッパを履くのが清潔といえる 、また、衛生面から見てもスリッパは種々のメリットがある」、などなどです。
確かにスリッパを履くと汗かきの人によっては靴下から漏れてくる足の汚れで床を汚さないことでしょう。
これは床側から観た場合です。
逆に、スリッパを履く人からみても確かに床の埃や汚れから足の清潔さを守ってくれるでしょう。
問題はそのスリッパが個人用ならいいのですが多くの人が履くスリッパの場合が問題です。
最近は、診療所などでもスリッパが消毒される機器が備え付けられるようになってきました。
ただ、どの程度に消毒されているかは疑問です。

またメリット派でも注意すべき点は挙げています。
例えば、「スリッパを履くことで得られるメリットは、
①足裏の皮脂や汚れが床につかない、
②足先が落下物から守られる、などたくさんありますが、一方で定期的にスリッパを手入れして清潔に保たないと逆に家や足が不衛生になってしまうそうです」、とありました。我が家では、どの程度、定期的にスリッパに手入れをしているのか分かりません。
しかし、上記①、②のメリットについては厚めの靴下を履くことで目的は達せられるのではないでしょうか。いずれにしても、どの意見もエビデンスがないのです。

そこで文献を調べてみることにしました。先ず、スリッパを履いている場合と履かない場合とで転倒の度合いを診ている研究がありました(1)。
この研究によると想像されるように障害物に対しスリッパを履いていると転びやすくなるようです。それは大いに考えられます。また、スリッパを履いている場合、障害物などがあると、転ばないためには股関節や膝関節を素足または靴下履きに比べ、より大きく動かさないといけないようです(2)。
若い人の場合はいいでしょうが、高齢者や歩行障害がある方にとっては転倒しやすくなることになります。実際にデイサービスを受けている高齢者での実験ではかなり転倒が増えるようです。 ただ、トレーニングを行うことによって転倒の頻度は少なくなるようです(3)が、それには限度があります。

しかし、病院などで患者が移動する場合はスリッパを空いていた方が感染の危険は避けられるというエビデンスはあります(4)。

洋風生活をしている人たち、例えばニュージーランドのオークランドシティのケアホームでの研究ではスリッパでは転倒やそれによっておこる怪我が柔らかいシューズに替えると転倒や怪我が減少したと報告もあります(5)。
また従来の室内ソックスやスリッパを滑り止めのあるものに替えると転倒の機会が減少したとの報告もあります(6)。

一方、スリッパの中でも足先がオープンになっている製品ではどうでしょうか? これらの結果とは異なった知見が得られる可能性もあります。ただ足先オープンスリッパにおける科学的観察結果がまだ見当たりません。

(ついでながらシンデレラのガラスの靴は何故かCinderella’s grass slipperといい靴なのにシューズとは言わずスリッパというようですね。)

ただ、外反母趾の治療に用いる副木スリッパはまた特別なスリッパですので、上に述べたスリッパのメリット・デメリットの論議には入れられません(7)。

以上のSNSによる個人的意見と少数の科学的観察結果を踏まえて、筆者の結論を衛生的観点から述べると、スリッパは特別な場合以外は履かない方が健康にはいいように思います。
かといって廊下や室内を素足で歩くのも本人のためにも部屋の清潔を保つ意味からもよくないでしょう。
和洋折衷の我が家のような家屋(おそらく多くの家屋がそうだとお思いますが)ではスリッパを履かず、靴下や足袋を履くのが衛生面からはよいように思います。
スリッパを履きながら最近自ら気になっているのはスリッパと床の擦れによる埃の拡散です。
その埃のなかにアレルギー物質や細菌などが巣くっている可能性もあります。
特に乾燥している部屋の場合が問題です。
床の材質やスリッパの材質によっても埃の質や量は異なると思いますが、これら身近のことにつては、今のところ研究が見当たりません。スリッパのメーカーや衛生学領域の研究者からの研究成果が待たれます。
2024,04,23.

文献

  1. Ohtsu H, et al. Gait Posture. 2021. PMID: 33668006
  2. Tanaka K, et al. Motor Control. 2023. PMID: 37172951
  3. Satoh A, et al. Geriatr Orthop Surg Rehabil. 2021. PMID: 34350055
  4. Haq MF, et al. Infect Control Hosp Epidemiol. 2023. PMID: 35997135 Clinical Trial.
  5. Kerse N, et al. Aust N Z J Public Health. 2004. PMID: 15233359
  6. Pelliard T, et al. Rech Soins Infirm. 2021. PMID: 35724024 (French).
  7. Mirzashahi B, et al. Acta Med Iran. 2012. PMID: 22359079
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